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最高裁判所第二小法廷 昭和25年(れ)1335号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人佐藤喜代作の上告趣意第一点について。

原審公判調書中被告人の供述として渡辺三郎は被告人が同人名義の貯金払戻受領証を作成した時から一年位前に戦死しているものであると述べていることは所論のとおりである。しかし右事実については被告人の右供述を除いては他に何等の証拠のない本件においては渡辺三郎が本件犯行当時確実に死亡していたと認定することは困難であるのみならず、たとえ同人が死亡していたとしても必ずしも所論のような違法あるものということはできない、原判決の確定した判示第一の事実は被告人は渡辺三郎外十名の預金者から貯金の払戻その他の為同人等名義の貯金通帳を預っていたのでこれを使用して同人等名義の郵便貯金払戻証書を偽造行使の上自己の占有する公金を横領せむとし右貯金通帳に多額の貯金の受入があった如く記載した後行使の目的を以て昭和二一年五月二四日頃より同二二年八月二〇日頃までの間数十回に亘り判示郵便局で同人等の名義を冐用し擅に原判決別紙第一、第二目録記載のような郵便貯金払戻金受領証合計六六通を偽造し恰も真正に成立したものの如く装うてその頃之を同局係員田中ハル子等に提出行使し其の頃、数十回に亘り業務上保管にかかる公金中より合計金二一万四二九円二〇銭を取出して自己の生活費、闇取引の資金其の他の用途に費し以て横領したというのであって、右渡辺三郎名義の郵便貯金払戻証書は被告人が生存中の渡辺三郎から預った郵便貯金通帳と共にこれを行使する目的でこの通帳に基いて作成したものであるからそれは渡辺三郎の生存中の作成にかかるものの如く作為したものとみるのが相当であり又一般人をして左様に誤信させるおそれの十分にあるものであるからかかる場合には、たとえその作成当時渡辺三郎が既に死亡していたとしても被告人の行為は文書偽造罪を構成するものと解すべきである。よって、論旨はその理由がない。

同第二点について。

しかし所論は量刑不当の主張であるから上告適法の理由とならない。

よって、刑訴施行法二条、旧刑訴四四六条により主文のとおり判決する。

右は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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